2011/10/02

郵便配達は二度ベルを鳴らす


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配達が終わった集配課















入所の前日まで郵便配達のアルバイトをしていた。
失業して約2年、仕事をくれたのは郵便事業だけだ。

アルバイト募集をしているのはネットで知った。
北摂のS市の本局で数名の配達員の求人だ。
半年間無事故無違反の証明を取り寄せて、面接試験を受ける。
行って驚いた。
老若男女取り混ぜて3桁になろうかというほどの大人数が行列を作っている。
不況の影響がここにも見てとれる。
落選した。

またある日、年末繁忙期のアルバイトの募集があった。
これもまた北摂のT市の本局で、大量募集だったので採用された。
55歳で郵便配達なんて今さらと嘆いたのは老母だが、自分としてはまんざらでもなかった。
人から人へ愛を届ける尊い仕事だと思っていた。
郵便受けの名前を確認しながら一通ずつ配達した。
玄関口ではベルを二度鳴らした。

荷物を満載したバイク(50cc)があまりに重たくて扱えず、少し減らしてもらったこともある。
郵便物を川に捨てるやつの気持ちが理解できた。
減らしてもなお支えきれずに「立ち転け」をする。
打ち所が悪くてバイクの方を駄目にしてしまい、始末書を書く始末。
あきれたおっさんアルバイトだ。
契約通り大晦日に解雇となった。

年末の経験がものを言い、2月にまた北摂のM市の本局で採用となった。
初日いきなりの大雪。
防寒具の支給もないままバイクで走る。
雪にタイヤをとられて転ける。
Gyro(ジャイロという名の三輪バイク)にしてくれたらいいのに!

M局の朝は集配課の課長が配達員を罵倒して始まる。
その次に支店長が課長を叱責して朝礼が終わる。
どれほどムチを入れられようと、あれほど大量の郵便物を指定の時間までに配達し終わるのはムリ!

その後は各班ごとにわかれてSKY(Simple Kiken Yochi)を行う。
これがKYT(危険予知トレーニング)の一種であることを、訓練所の講義で初めて知った。
各班のサブリーダーが別の班にやってきてSKYを行う。
配達エリアのどこかの写真をとり出して、班員に見せる。
班員は、予想される危険性を口々に述べる。
「もの陰から子どもが走り出てきて衝突します」
「前を走っている車が急停車して追突します」
「交差点に飛び出してきた自転車に衝突します」
「上空のUFOから突然の攻撃を受けます」
など、ブレーンストーミングだから何を言ってもいいのだ。

次に、予想された危険性に対する策を講じる。
いろいろな意見が出て、対策もいろいろとあり得るが、一つに絞る。
今回は「前方注意」でいきましょう、とサブリーダーがまとめる。
これを全員で唱和する。
サブリーダー「かまえて!」
全員が輪になって、片手を中央に差し出す。
サブリーダー「前方注意、よし!」
全員で「前方注意よし! 前方注意よし! 前方注意よし!」
と繰り返して言う。
一回ごとに人差し指を振り上げ、振り下ろす。
声が小さかったり、所作が揃わなかったりするとかっこうがつかない。
 

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