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配達が終わった集配課 |
入所の前日まで郵便配達のアルバイトをしていた。
失業して約2年、仕事をくれたのは郵便事業だけだ。
アルバイト募集をしているのはネットで知った。
北摂のS市の本局で数名の配達員の求人だ。
半年間無事故無違反の証明を取り寄せて、面接試験を受ける。
行って驚いた。
老若男女取り混ぜて3桁になろうかというほどの大人数が行列を作っている。
不況の影響がここにも見てとれる。
落選した。
またある日、年末繁忙期のアルバイトの募集があった。
これもまた北摂のT市の本局で、大量募集だったので採用された。
55歳で郵便配達なんて今さらと嘆いたのは老母だが、自分としてはまんざらでもなかった。
人から人へ愛を届ける尊い仕事だと思っていた。
郵便受けの名前を確認しながら一通ずつ配達した。
玄関口ではベルを二度鳴らした。
荷物を満載したバイク(50cc)があまりに重たくて扱えず、少し減らしてもらったこともある。
郵便物を川に捨てるやつの気持ちが理解できた。
減らしてもなお支えきれずに「立ち転け」をする。
打ち所が悪くてバイクの方を駄目にしてしまい、始末書を書く始末。
あきれたおっさんアルバイトだ。
契約通り大晦日に解雇となった。
年末の経験がものを言い、2月にまた北摂のM市の本局で採用となった。
初日いきなりの大雪。
防寒具の支給もないままバイクで走る。
雪にタイヤをとられて転ける。
Gyro(ジャイロという名の三輪バイク)にしてくれたらいいのに!
M局の朝は集配課の課長が配達員を罵倒して始まる。
その次に支店長が課長を叱責して朝礼が終わる。
どれほどムチを入れられようと、あれほど大量の郵便物を指定の時間までに配達し終わるのはムリ!
その後は各班ごとにわかれてSKY(Simple Kiken Yochi)を行う。
これがKYT(危険予知トレーニング)の一種であることを、訓練所の講義で初めて知った。
各班のサブリーダーが別の班にやってきてSKYを行う。
配達エリアのどこかの写真をとり出して、班員に見せる。
班員は、予想される危険性を口々に述べる。
「もの陰から子どもが走り出てきて衝突します」
「前を走っている車が急停車して追突します」
「交差点に飛び出してきた自転車に衝突します」
「上空のUFOから突然の攻撃を受けます」
など、ブレーンストーミングだから何を言ってもいいのだ。
次に、予想された危険性に対する策を講じる。
いろいろな意見が出て、対策もいろいろとあり得るが、一つに絞る。
今回は「前方注意」でいきましょう、とサブリーダーがまとめる。
これを全員で唱和する。
サブリーダー「かまえて!」
全員が輪になって、片手を中央に差し出す。
サブリーダー「前方注意、よし!」
全員で「前方注意よし! 前方注意よし! 前方注意よし!」
と繰り返して言う。
一回ごとに人差し指を振り上げ、振り下ろす。
声が小さかったり、所作が揃わなかったりするとかっこうがつかない。
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