2019/11/21

運命のコイン


今年は大流行と聞いて、久しぶりにインフルエンザのワクチン注射を受けた。
自分が罹患して現在同居中の母に移さないようにとの配慮である。
想定の内だったが、注射をしてから体調不良である。

それはともかく。
愛読誌『本の雑誌』では、毎年度の文庫本ベストワンを読者から募り、それを同社『おすすめ文庫王国』の毎年版で紹介している。
今回の募集のレギュレイションは「2019年11月以降発行の文庫」を「11月5日までに」応募せよ、というものであった。
絶対に無理とはいえないが、かなり厳しい日限である。
五日間で一冊読めたとして、それがベストワンになる必然性が高い。

偏固ジャーナルが選んだベスト&オンリーワンは……
ジェフリー・アーチャー著、戸田裕之訳『運命のコイン』(上・下巻/新潮文庫・2019年11月1日発行)である。


帯つき


帯なし


「前科者」アーチャーは七部の大作『クリフトン年代記』の後、例によって短編集『嘘ばっかり』を出版した。
『嘘ばっかり』に付録されたのが『運命のコイン』の予告編である。
こんな形で自作の販売促進をしたのは、たぶんアーチャーが最初だろう。

ネタばれしないように『運命のコイン』を紹介したい。
レニングラードで幕を開けた物語は、まるでコインの表裏のようにイギリスへ、あるいはアメリカへと展開して、再びレニングラード(サンクトペテルブルク)に回帰する。
主人公はレニングラード生まれのアレクサンドル・カルペンコ。
愛称はアレックス、あるいはロシア風にサーシャである。
レニングラード時代にウラジーミルという友人がいた。
予告編でニコという名だった叔父は、本編ではコーリャとなっている。
以上w
もしかして、アーチャー初のSFか?という気がしないでもない。

『運命のコイン』をもって文庫ベストワンへの応募を果たすことができた。
厳しい締め切りについては、編集部から「2018年11月以降」の誤りでした、と連絡があった。
 

2019/11/06

N-3Bもどき


「N-3Bジャケット」というものを買った。
ユニクロブランドでカンボジア製、本来7,990円のところ、4,990円に値引きされて売られていた。

N-3Bは偏固ジャーナルに、よく登場するアイテムである。
米国の軍用仕様(ミルスペック)に従って作られた、防寒用のコートの一つである。
MA-1というのも、よく耳にするスペックナンバーだが、これはパイロット用の短ジャンパーのことで、短い衿と袖口がリブ編みである。
N-3Bは尻を覆うほどの丈の長さで、縁にボアのついたフードが付属する。
こちらも袖口はリブだが、リブを袖が覆う仕立てになっている。
N-3Bを丈だけ短かくしたものがN-2Bである。

N-3Bは、またの名をアラスカンコートといい、極寒地で寒さをしのぐために開発されたものである。
寒がりの私は、30年前のある日、西心斎橋の服屋で一着買い求めた。
ミルスペックに沿った衣料品の有名ブランドには、AVIREX(アヴィレックス)、ALPHA(アルファ)、Buzz Rickson(バズ・リックソン)などがある。
いわゆる軍の放出品なのだが、民間人のファッションアイテムとして人気を得たのである。
私が購入したN-3Bは紙製のタグが縫い付けてあるだけの、いわゆるノーブランド品だった。
価格は3万円。
有名ブランドよりは、かなり安い買い物だった。

軍国主義などと批判を受けることがある。
なにゆえに、戦争服を着るのか。しかも、かつての敵国のものを。
自分としては、たんに機能を重視した結果の選択だったのである。
軍の要求するスペック(耐寒性、耐久性や、それらに関わる材質等)は非常の厳しいもので、そこから生まれた私のN-3Bは、なんと30年の使用に耐えたのである。
まさか、30年の使用に耐えうること、という仕様ではなかったであろうが、一気に力尽きて朽ち果てるような最期だった。

さて、ユニクロの「N-3Bジャケット」である。
つまるところ、ミルスペックに則っていないはずのものが、N-3Bを名乗ってはいけないのである。
N-3B「風」ジャケット、とか、N-3Bジャケット「もどき」、が相応しい。
そういうことを言っておきながら、値段の安さに負けて、買ってしまった。
やっぱり、見るからに温かそうでもあるし。
消費税込みで5,489円。
30年前のN-3Bの、約6分の1だから、5年保ってくれれば御の字である。