以前読んだことのある翻訳作品を、新訳で読み直すには勇気がいる。
気に入って何度も読んだ『夏への扉』(ロバート・A・ハインライン著、福島正実訳、ハヤカワ文庫)には、同じ出版社の2009年版新訳が存在する。
書店でちらっと見かけたが、まだ第三種接近遭遇を行っていない。
そやかて、怖いやん。
名前を聞いたこともない訳者やし。
その点で、レイモンド・チャンドラー作品の新訳は違う。
訳者が村上春樹だったので、すんなりと手にとって読むことができたのである。
四十年ぐらい前に、夢中で読んでいた警察小説がある。
刑事マルティン・ベックの物語である。
角川文庫から出ていたこのシリーズは全部で10冊あった。
作者はスウェーデン人で、マイ・シューヴァル&ペール・ヴァールーというカップルだった。
日暮修一の装幀もスタイリッシュで気に入っていた。
後年、10冊まとめて古書店に売ってしまったけどね……
最近になって、マルティン・ベックにも新訳が出たのである。
漏れ聞くところによると、本国で復刊されてブームが再燃したらしい。
新訳はそれに便乗したのだろう。
旧訳は英米文学翻訳家の高見浩が、英訳版を翻訳したものだったのだが、新訳はスウェーデン語から直接日本語に翻訳したものである。
図書館の書庫に眠っていた『ロゼアンナ』 |
新訳版『ロセアンナ』(角川文庫) |
『ROSEANNA』(原題)は、シリーズの第一作である。
高見浩訳ではこれを『ロゼアンナ』、新訳では『ロセアンナ』としているところが違う。
新訳者は、スウェーデン語の発音では濁らないのだと言うのだが『ROSEANNA』は固有名詞で、アメリカ人女性の名前なのである。
彼女の名が最初に登場するとき、それをマルティン・ベックに口伝えするのはアメリカの人なのである。
当然『ロゼアンナ』とすべきである。
残念。
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