2015/09/03

プロとして







小雨降る中、近くの田園地帯を散歩した。
実りつつある稲の田の傍らに、モダンな農家を見つけた。
農家と思うで……たぶんね。
極端に細い敷地に載った、総ガルバリウム張りの直方体。
塗装もしていない無垢の状態ではなかろうか。

通り過ぎて少し行くと、旧というよりも本、といった方がいいのではないだろうか、西国街道(さいごくかいどう)と交差する。
街道は、それと判るように路肩に石畳が敷設されているのである。
往時を偲ばせる、こちらは純和風の大きな農家が、道の両側に立ち並んでいる。








ところで、最近巷を騒がせていることの最たるは五輪のエンブレム問題だろう。
我が本棚に『プロとして恥ずかしくないデザインの大原則』というMOOKを見つけた。
盗んではならぬ、という当たり前過ぎることは、書かれていない。

デザインの仕事に携わっていた頃に、先輩ディレクターから教わったことに、
「学ぶはマネぶに通ず」というのがある。
逆だったかも知れぬ。
「マネぶは学ぶに通ず」か。
他人のデザインを真似るのも勉強だ、という意味である。

デザインを志す者は、美術館に行って多くのアートを鑑賞したり、映画をたくさん観たり、本や雑誌もしこたま読む。
他人の作品に接することを勉強の一助とするのである。
その中で、インスパイアされたものをメモライズする。
展覧会のチケットの半券を残しておいたり、映画のパンフレットを購入したり、雑誌を切り抜いたり、自分の手でスケッチしたり。
それらの断片を保存しておく。

断片は手帳やノートに貼り付けておいたり、専用のスクラップブックを用意してファイリングする。
それが何冊もたまっていって、けっこう大きなアイデアソースとなるのである。

佐野研二郎氏は、大層勉強して、ファイルを山ほど作ったのではないか。
エンブレムのデザインを考える際には、着想を得るために自分のアイデアソースを含め、いろいろなものに目を通していたに違いない。
観に行って感銘を受けた、ヤン・チヒョルト展のバナーの写真がスクラップされていたとしても、またそのイメージが作品に反映されたとしても、不思議ではない。
だから、五輪エンブレムの原案はヤン・チヒョルト展にインスパイアされてできました、と釈明した方がまだよかったのに。
しかも、悪人面でかなり損をしたな……と思うのである。
ごめんな。

デザイン界の誰も彼を擁護しようとしないのは、彼の落ち度を認めているからだろう。
デザインに携わる者たちが同じような方法(他人の作品からも学び、得たものを時として自分の作品に活かす)で仕事をしている以上、同様の火の粉が自らに降りかからないように、口を噤んでいるのかも知れない。

 

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