2017/10/23

目黒さんから次郎さん、三郎さんへ-->




















△偏固ジャーナル十月二十日(金)ドキュメント。
 こんな日にかぎって、朝から胸の調子がよくない。幸いに午後には治まったので、腹ごしらえをして、外出の準備。
 髭をきれいに剃り、服装を整える。足元から決める。茶色のサドルシューズを選択。煉瓦色のクレープ底が貼ってある。パンツは濃い色のタータンプレイドに、靴と同色のベルトを通す。紺色のボタンダウンシャツに、黄金色無地のシルクタイを締める。最後に紺色のブレザーコートを羽織り、ポケットには紺色のポケットチーフをはさんだ。
 まあ、いわゆるひとりの「めかし屋」だ!
 トートバッグの中には、寒くなった時のためにタータンのマフラーと鹿皮の手袋を入れた。その他に折畳み傘、システム手帳と万年筆、『本の雑誌』の最新号と2005年の12月号も装備。電車の中で読むための本は、ロジャー・ホッブズ『ゴーストマン 消滅遊戯』だ。

 今日の目的地は大阪・梅田の蔦屋書店。店内のラウンジで行われる、大御所書評家の北上次郎氏のトークイヴェントに、予め参加申し込みをしてあった。
 梅田に、かなり早く着いたので、あちらこちらに寄り道をする。
 まずはマルビルの地下にある、FM COCOLOのスタジオを覗きに行く。関西の人気ディスクジョッキーであるマーキーが公開放送をやっている、と思ったが今日は休みだった。
 地下伝いにヒルトンホテルの建物まで歩く。エスカレータで5階にある書店へ。ジュンク堂としては規模の小さい店だが、やはり品揃えの点で郊外店には優っているのである。
 海外小説の棚をチェックしてから、別の棚でドローン関係の雑誌を見る。パーツを集めて自作するドローンや、水素を燃料にして飛ぶドローンなどに大いに興味をそそられる。
 LUCUA 1100(ルクアイーレ)に移動する。外では雨が降り出していたのだが、地下を歩いて濡れずに行けた。エレベータで9階の蔦屋書店へ。

 この時点で開演まで1時間半。早いにも、ほどがある!
 しかし、ここならいくらでも時間をつぶすことができるのである。ただの本屋ではなく、カフェ(スターバックスコーヒー)があり、Appleのショップ(キタムラ)もあり、(その他略w)ヴァラエティあふれるお店が併設されていて、飽きない。いや、すべて見て回ることなど、この空き時間でできそうにない。
 ムックを一冊買った。SPring-8を特集したPen+(ペンプラス)である。SPring-8とは、巨大な加速装置であると理解していたのだが、何を加速させるかというと、それは電子であって、加速装置はSPring-8の一部分にしかすぎないということが、ようやくこのムックをつまみ読みしてみて、わかってきた。

 それはともかく、会場となるラウンジの近くのデザイン関係の棚を見ていたら、なんとそこへ北上次郎氏が「楽屋入り」するために歩いて来たのである。彼は私にとっては目黒考二である。いきなり目黒さん初めまして、と声をかけて驚かせてしまった。
 本日のイヴェントタイトルは「北上次郎選2017年のエンタメおすすめ本30 今年読んで面白かった本をどーんと紹介」とやたらに長い。
 演壇がわりのテーブルの真正面、三列目に席をとる。北上次郎氏が登場する前に蔦屋の担当者が氏の紹介をしたのだが、キタカミと呼ぶのであれっと思う。1976年に『本の雑誌』を立ち上げて……は北上次郎のプロファイルとしてはどうかなあ。
 初めて聴く生のトークである。自身で言うように早口で、30冊をあっという間に紹介。以下リスト。

1.ダークナンバー(長沢樹)
2.冬雷(遠田潤子)
3.天上の葦(太田愛)
*4.地獄の犬たち(深町秋生)
5.ハンティング(カリン・スローター)
6.その犬の歩むところ(ボストン・テラン)
7.暗殺者の飛躍(マーク・グリーニー)
8.フェイスレス(黒井卓司)
9.横浜駅SF(柞刈湯葉)
*10.この世の春(宮部みゆき)
11.腐れ梅(澤田瞳子)
12.花しぐれ(梶よう子)
13.蘇我の娘の古事記(周防柳)
14.アキラとあきら(池井戸潤)
15.なかなか暮れない夏の夕暮れ(江國香織)
16.カンパニー(伊吹有喜)
17.球道恋々(木内昇)
18.北海タイムス物語(増田俊也)
19.女系の教科書(藤田宜永)
20.ヒストリア(池上永一)
*21.本日も教官なり(小野寺史宜)
*22.ルビンの壺が割れた(宿野かほる)
*23.盤上の向日葵(柚月裕子)
*24.つぼみ(宮下奈都)
25.君が夏を走らせる(瀬尾まいこ)
*26.ビンボーの女王(尾崎将也)
27.劇団42歳♂(田中兆子)
28.嘘つき女さくらちゃんの告白(青木裕子)
29.間取りと妄想(大竹昭子)
30.かがみの孤城(辻村深月)
*のついた作品は『本の雑誌』11月号でも紹介。

 ジャーナル子は翻訳ミステリ専門なので、興味があるのは5番と7番だけだが、グリーニーは二作読んだ時点で見限ってしまったのでスローターだけに集中する。その他の国内作品は、聴き流すだけだ。
 しかし、次郎さんの話を聴いていると、どの作品も面白くて読んでみたいという気にさせられるのである。
『冬雷』の遠田潤子を語る。『雪の鉄樹』でブレイクした今注目の作家、『オブリヴィオン』もすごく良くて、『本の雑誌』の最新号で採りあげたという。ええっと、何と書いたんだったかな……と続けたところで、蔦屋の担当者が売り場へ最新号をとりに走る。広い店ゆえ、話の続きには間に合うまい。最初から用意しておくべきだろう。
 というわけで、ジャーナル子がバッグから最新号をとり出して「新刊めったくたガイド」の頁を開けて、次郎さんに渡した!のである。
 ところが『オブリヴィオン』を紹介したのは未発売の12月号だったので、どちらにしても役には立たなかったのである。

 次郎さんは30冊の紹介を、見事に時間通りに語り終えた。その後サイン会が行われたので、件の『本の雑誌』の表紙に「北上次郎」と書いてもらった。
 もう一冊の2005年12月号の「笹塚日記」には、ジャーナル子(イニシャルT)が目黒さんにメールを打って、氏のレシピでドライカレーを完成させたエピソードが載っているのである。そのことを話すと「ほんとうですか!」と言って、表紙に「目黒考二」とサインをしてくれた。
 帰り際に、菊花賞のついでに来はったんでしょうと訊いたら、そうです、と藤代三郎の笑った顔が答えた。台風が迫り来るなか菊花賞は開催されたが(キセキが一着)、目黒さんが無事に帰京できたのが、気になっている。
 

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