未来が見えない。
当たり前だ(のクラッカー、と心の中では続く)。
自分の往く先が見えない。
昔のことを、よく思い出す。
人生が終わりに近づいたことを予感させる。
『暗くなるまで待てない!』は1975年4月公開の映画である。
若き大森一樹監督が16ミリで撮った、自主制作映画である。
2008年のデジタル・リマスター版が手に入ったので、観賞した。
以前に観ているが、断片的にしか憶えていなかった。
公開から一、二年して、友人のJと『暗くなるまで待てない!』の自主上映会を企画した。
大学の二回生か三回生の頃のことである。
Jと二人で、芦屋にあった大森の自宅を訪ねた。
何を話したか、何の記録も残っていないが、大森の靴下に大きな穴があいていたことだけが印象に残っている。
上映会は二本立てで行なうこととし、『暗くなるまで待てない!』の相方に『青春の蹉跌』(1974年6月公開)を立てたのである。
『青春の蹉跌』は石川達三の小説の映画化(神代辰巳監督)であり、萩原健一と桃井かおりが主演を務めている。
萩原(サブちゃん)と桃井(恐怖のウミちゃん)のコンビは、1975年に始まったテレビドラマ『前略おふくろ様』へと引き継がれる。
『暗くなるまで待てない!』の劇中、大森自身が扮した映画監督が、ある女優を指して言う「桃井かおりよりもいいよ」という台詞を、今回の観賞で確認した。
そのことを知っていて、Jは、『青春の蹉跌』を二本立ての相方に選んだのか、と今さらながら気づくのである。
上映会の場所には御影公会堂を選んだ。
人も集めた。
そろそろ上映を始めようという頃に、大きな問題が発生した。
映写機のレンズに付けるワイドコンバータが、なかったのである。
『暗くなるまで待てない!』は通常の16ミリ作品なので、コンバータを装着しない状態で問題なく映写できる。
ところが『青春の蹉跌』は劇場公開版の16ミリヴァージョンで、通常の16ミリの画面よりも横長(ワイド)だったのである。
すなわち『青春の蹉跌』を、正しくワイドな画面で映写するためには、ワイドコンバータが必要だったのである。
今からコンバータを借りに行っている暇は、ない!
我々(上映会の学生スタッフ)は来場者に、わけを話してお詫びして、コンバータなしで『青春の蹉跌』を上映したのである。
スクリーン上には、左右寸詰まりのショーケンと桃井かおりが映ることになったのだが、そんな映像にも慣れることができるということに気づいた。
さらに後で気づいたのだが、コンバータを装着してワイドに映写できたとして、公会堂のスクリーンの左右から映像がはみ出さなかっただろうか……ということである。
『暗くなるまで待てない!』は、そんなほろ苦い思い出を伴なう映画である。
1974年晩秋(撮影当時)の、神戸近辺の風景や風俗が映り込んでいて、記録的な価値もある。
クレジットされている鈴木清順以外に、神戸女学院の学園祭(1974年11月2日)でステージに立つ野坂昭如の映像も記録されている。
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