図書館で翻訳小説の棚を渉猟していて『記者魂』というタイトルを見つけた。
早川のポケットミステリで、MWAの最優秀新人賞受賞作だ。
作者はブルース・ダシルヴァ、当時65歳の元新聞記者である。
翻訳からすでに5年経っている。
小説にしろ映画にしろ新聞社が舞台のものが好きなのに(例えば『大統領の陰謀』『クライマーズ・ハイ』)、チェックできていなかった。
『記者魂』の原題は、Rogue Island。
訳せば「ならず者の島」となるが、これは作品の舞台となるロード・アイランド州の仇名ということである。
記者魂ときけば普通は、ニューズソースは明かさない、権力に屈しない、正義を貫く、などの言葉が想起されるが、この作品にそれらを期待すると裏切られる。
ダシルヴァの小説は今のところ『記者魂』一冊で、本国で二作目が出版されたという情報も得ていない。
65歳の処女作で新人賞を受賞して、そのまま終わるのか……?
〈ちょっとネタばらし〉
主人公の記者が情報を得るために複数の偽名を使う。
ジェブ・スチュアート・マグルーダー
チャック・コルソン
ジェイムズ・W・マッコード
それを手伝う後輩記者にはゴードン・リディの名を騙らせる。
「それにしても、ゴードン・リディって誰なんです?」
と若い記者は訊くのだが……
この件り、解説も訳注もないので本ジャーナルが独自に伝えるのであるが、いずれの名も、かのウォーターゲイト事件に関与した人物のものである。
若い記者がそれを知らないという設定は、作者が記者の資質を卑下したいがゆえか、ウォーターゲイト事件が忘れ去られていることを暗示したいがゆえか。
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